第十四話「明るみ」

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「そうだ。結納は爺さんが勝手にやることなんだ。逆にそれで負担を掛けるのは、こっちが心苦しくなる。その辺は気を使わないでくれ」 「……分かりました」  申し訳なさと同時に、どこかで安堵もして、花衣は真顔で頷いた。 「とにかく叔母さんご夫婦には、当日正装して会場まで来てもらったらそれでいい。後はこっちで適当にやる。君の着物代も払いたいが、そこはさすがに叔母さんが嫌がるだろうな」 「はい……」  一砥はそこで顎を掴んで少し考え、「ちょっとその呉服店に連絡してみる。ちょうど今、俺も時間があるし、君も特に予定はないだろう?」と言った。 「足は大丈夫ですか」 「ああ、大分痛みも引いた。あちらの都合が良ければ、今日出掛けよう」 「分かりました」  笑顔で頷いた花衣だったが、そこで自分の今の格好が、いつものセーターにジーンズという軽装なことに気づき、「あっ、でもそのお店に行くなら、ちょっと家に帰って着替えて来ます!」と慌てて言った。  もうスマホを手に店に電話していた一砥は、口の端に笑いを浮かべて無言で頷いた。        *****  二時間後。  二人は銀座に来ていた。  一砥の言う呉服店は、都内に複数支店を抱える大きな会社だったが、ちょうど社長も銀座の本店に出社しており、先方からぜひにと言われてタクシーを使いここまで来た。     
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