第十四話「明るみ」

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 その表情から彼女が本気で娘を案じているのだと知り、一砥も真剣な表情と態度で、自分が花衣を心から愛しており、何があっても生涯彼女を守り抜く覚悟だ、と伝えた。  一砥から直接、娘の幸福な結婚の確約を得たことで、華枝は心底安堵したらしく、喜びの涙を流して彼に礼を言った。  そして一砥もまた、実の母から娘を託されたことで、より結婚への強い決意と、彼女の出生の秘密を墓場まで持っていく覚悟を決めた。  ただ華枝と会った際に、彼は驚くべき事実を聞いた。  亜利紗がこのことを知っているのだ、と華枝は言った。  親子喧嘩の理由を思いがけない形で知り、一砥は驚くと同時に、今も沈黙を続ける亜利紗の気持ちを思った。  亜利紗は華枝に、花衣の幸せのために秘密を守るが、実の妹として一生姉を見守り続けるつもりだと、そう宣言したらしい。  嘘と誤魔化しが嫌いな亜利紗にとっては、かなり大きな決断だったと言える。  それは全て、花衣を思うがゆえの苦渋の選択だろう。  一砥も亜利紗も愚かなオオカミ少年とは違い、「最後の一葉」を命を賭けて描いた絵描きのように、純粋な愛情から騙す側に回った。  その思いが理解出来るゆえに、一砥は亜利紗の気持ちを思うと切なかった。  今は出社を許されない身ゆえに、亜利紗と直接会うことも難しいが、いずれ時期を見て、彼女とも一度話す必要があると思った。     
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