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華枝はその日のうちに、亜利紗にも一砥の話をしたのだろう。
翌日早朝、亜利紗から一本の電話があった。
彼女はいつもよりずっと大人びた声で、「さっき、花衣が帰ったよ」と報告した。
そして、「花衣のこと、お願いします」と続けた。
一砥は急に胸が苦しくなって、ただ一言、「分かった」と返すのが精一杯だった。
けれどそれで充分だった。
その短い会話で、二人は共犯者となった。
亜利紗の家から戻った花衣は、どこか晴れ晴れとした表情で、引っ越してからの二人の生活について嬉々として話した。
それまでどこか後ろ向きだった一砥との結婚を、彼女が肯定的に受け止めるようになったのは、おそらく亜利紗の何らかの助言があったのだろう。
心から幸せそうに笑う花衣の笑顔を見つめながら、一砥は心の中で義理の妹に礼を言った。
あの日のことを思い出しながら、一砥はアルコールの力によって、ゆっくりと眠りの泉に沈んでいった。
そのタイミングで亜利紗からまた、彼の携帯に電話が掛かってきていたが、酔って寝室にいる彼には、リビングでかすかに響く呼び出し音は届かなかった。
その電話に出なかったことを、彼は後に激しく悔やんだが、たとえ出られたとしても、その後の彼の人生が変わったとは思えなかった。
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