第十四話「明るみ」

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 いかにもやり手の女社長という理知的な印象の老婦人は、眼鏡の奥の目を柔和に細めて一砥と花衣を歓迎してくれた。  高級ホテルのロビーのような洗練された店内で、さらに奥のVIPルームに通されて、椅子に腰掛けたまま、まずは専用タブレットで好みのデザインを全店舗から探した。  花衣が選んだのは、黒地に桜と蝶が描かれたエレガントな柄のものと、グラデーションの美しい桃色の地に、大輪の牡丹の花が描かれた華やかな柄の二種類だった。  隣で同じ画像を眺めていた一砥は、「どっちも似合いそうだな。試着してみるといい」と言った。  すかさず同席していた社長が在庫確認し、「どちらも今、こちらに在庫がございますので、すぐにご試着いただけますよ。合わせて小物もつけてみましょう。写真撮影も致しますので、ヘアセットもなさいますか」と笑顔で訊ねた。  花衣が返事をする前に、一砥が「お願いします」と頷く。  さらに彼は、「あとこれも着てみてくれ」と言って、深緑色の地に菊や檜扇(ひおうぎ)、熨斗(のし)といった伝統的な柄の描かれた格調高いデザインのものを一点選んだ。 「これもこちらにありますか」  一砥の問いに、女社長は満面の笑みで「はい、ご用意致します」と答えた。     
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