第十四話「明るみ」

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 あれよあれよと言う間に、花衣は専門のスタッフに囲まれながらさっそく最初の桃色の着物に着替えさせられた。  美里のショーに出た時のことを思い出しながら、綺麗に髪もアップスタイルに変えた花衣は、一砥も待つ撮影用の部屋に入った。  現れた花衣を見て、女社長が「まあ素敵!」と歓声を上げる。  チラと一砥の表情を窺うと、彼は無言で目を細めた。  とにかくあと二枚も着る予定があり、ろくに婚約者の感想も聞けないまま、花衣は撮影を終えるとまたすぐに、今度は黒、最後に緑と着替えていった。  着物が変わる毎に髪飾りや帯、草履まで全て変えるため、なかなかに大変な着替えとなった。  女社長は着替えた花衣が登場するたび、「大変お綺麗ですわ」「こちらも大層お似合いです」と賛辞を惜しまなかったが、肝心の一砥はノーコメントを貫いた。  候補の三種類を全て試着し終えた後、一砥は写真を受け取り、それを花衣に渡した。 「どれも良かった。とりあえずこの写真を持って帰って、叔母さんや友人の意見も聞いて決めるといい」 「あ、はい……。あの、一砥さんは、どれがいいと思いましたか?」  一砥はふっと微笑み、「言っただろう。どれも良かった。俺としては、君が一番良いと思った柄を着るのがいいと思う。安心しろ。どれを選んでも俺は綺麗だと思ったから」と言った。     
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