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第十四話「明るみ」
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翌日の午後、一砥は退院した。
検査の結果は異常なしだったが、担当医からは、吐き気や頭痛、めまいや耳鳴りと言った症状、また少しでもおかしいと思ったらすぐに受診して下さいと、くどいほどに言われた。
挫いた足以外に頭部にもかなりの衝撃が加わっており、軽いむちうちと診断された。
迎えに来た奏助の撮影用の4WD車で、花衣と一緒に後部座席で揺られながら、一砥は包帯の巻かれた左足を見下ろし、首につけられたコルセットを忌々しげに撫でた。
医師の忠告を隣で聞いていた奏助と花衣からは、「仕事しばらく休んだ方がいいんじゃない?」「くれぐれも無理しないで下さいね」と諭された。
さらに今朝病室へ来た高木秘書からは、会長からの伝言だとして、「社長代理として本社役員の遠野(とおの)をLuZに出向させたから、お前はしばらく休め。……とのご命令でございます」と言われた。
体が不自由な上に仕事も奪われ、途端に一砥は落ち着かない気分になった。
生来、仕事が半分趣味のような男だから、恋人との水入らずの時間を純粋に楽しめたのは最初の数日で、退院から一週間経つともう、その苛立ちと尚早は相当なものになった。
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