赤いワンピースの女

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あの若造の新曲を書かなければならない、仕事とはいえいまいましい。 いつもの仕事場は煮詰まったので、抜け出して近所のカフェに来た。黄色いガス灯が大きく石畳の街路を照らしている。夜気が涼しく気持ちいい。少し着飾った紳士淑女が集まってくる。 先ほどきた若いカップルの女性の方が、何だが怒ったような様子で、出て行った。男性の方は追いかけるでもなく、ただぼーっと青く光るよぞらを見上げていた。 その女性は赤いワンピースを着ていた。黄色い花柄模様の入った赤いワンピースだった。彼女のことをテーマに歌を作ろう。彼女はいかにしてカフェに現れ、いかにして立ち去ったのか。職業は看護師、年齢は三十二歳。独身。結婚寸前までいった 彼氏がいたが、お金関係のトラブルに巻き込まれて破談。それ以来恋愛に慎重になる。 妹が一人、既婚で子供が二人いる。甥っ子たちを溺愛していて、甘やかす。 カフェにいたのは最近付き合っている彼氏。年下で少し頼りない。だがイケメンでやさしいところもあるので、とりあえず付き合っている。 という設定を考えた。Mのところに電話する。「もしもし、俺。ちょっと思いついたことがある。赤いワンピース持ってる?花柄の。うん。ちょっとそれ着て待っといて。うん。看護師の設定。いや、ナースの服じゃなくて。赤いワンピース。うん。それじゃ、今から行くから」俺は電話を切った。 どんな歌になるのだろうか。Mがどうな風に演技のプランを考えてるかによるかもしれない。
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