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そう考えながら顔を上げた警部補の目に飛び込んできた のは、警察官とはまったく違う、異様な姿の一団であった。
黒いスーツにサングラスの、大柄な外国人の男たち。彼らは、中央に立つ一本の傘を護衛するように、こちらに近づいてくる。
――その傘の下に、異形の人影が立っていた。
まだ若い娘で、齢は十八歳くらい。長い黒髪が匂やかにそよぎ、ノンフレームの眼鏡の奥で美しい切れ長の目が光っている。
白いブラウスに暗い色の上着をまとい、同じ色の長いスカートを穿いていて、胸には十字架のペンダントが吊るされている。
――それは、深夜の殺人現場にはまったく不似合いな人物。神に仕える、修道女(シスター)の姿であった。
「な、何だ、あいつらは!?」
奇怪な一団は光と闇の境界を越え、まっすぐこちらに向かってくる。
「止まれ!現場の保存中だ、立入禁止だぞ!」
警部補が、手を振り上げて制止する。
それを見て、傘を差しかけていたアフリカ系の男が、端正なクィーンズ・イングリッシュで男たちに命令した。日本の警察と面倒を起こすな。そう言っているのが、警部補の耳にも聞こえてきた。
「勝手に現場に入るな!公務執行妨害で逮捕するぞ!」
「どうぞ、好き なようにしたまえ、警部補」
幹部らしいアフリカ系の男が、流暢な日本語に切り替えて言った。
「ただし、逮捕する前に、一度君の上司に相談することをお勧めするがね。――でないと、君の首がなくなるぞ」
「な、何だって!?」
「これは、親切心からの忠告だ。警部補」
アフリカ系の男が、唇の端を歪めて笑った。それを待っていたかのように、パトカーで待機中の若い巡査の声が聞こえた。
「警部補、本部長からです。至急、大事なお話があるそうです!」
「……!」
警部補が、慌てて無線にかじりつく。それを尻目に、男たちが車に歩み寄り、ドアを開けた。
運転手らしいスーツの男が、血だらけでハンドルに突っ伏している。そして後部の座席には、異形の物体がひとつ、置かれていた。
闇の中、胸に手を当てて、祈りを捧げる修道女の金の像(ピエタ)。――いや、髪の一本一本まで精密に表現されたそれは、生きている女がそのまま像と化したと言ったほうがふさわしかった。
破壊された車内で、かろうじてラジオだけが生きている。
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