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第一章 夏への扉 《The door to summer》
約六時間後 七月十九日 〇八時二十七分
「のえる、急がないと遅刻するわよ!!」
雨が上がり、夏の太陽が降りそそぐ通学路に、少女の大きな声が響いた。
三浦半島東部、舘須賀市の南端に位置する港町、万里浜町。そこにある聖陵学園付属中学校の正門に向かう並木道を、ふたりの少女が自転車を引きながら走っていた。
ひとりは、眼鏡をかけた、のんびりした感じの娘。そしてもうひとり、彼女を励ましながら、黒髪の少女が並んで走ってくる。
艶やかなショートの髪に、深い輝きを放つ黒い瞳。眉は意志の強さを示すようにまっすぐで、桜色の唇と真珠のような歯が朝の光に輝いている。
「ほら、のえる、頑張って!八時半まであと二分、急がないと遅刻するわよ!」
黒髪の少女が、茶髪の娘の肩を叩いて励ました。
「薫、そんなこと言ったって、あたしもう駄目よぉ~。あんたと鍛え方、違うしぃ~」
「何言ってるの、のえる!だいたい、あんたが待ち合わせに二十分も遅れるからこうなったんでしょ!?」
「そ、それを言われるとメンボクない」
のえると呼ばれた茶髪の娘が、肩で息をしながら言った。
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