第一章 夏への扉 《The door to summer》

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「それよりさぁ、薫、こんな時魔法が使えたらいいのになぁ~って、思わない?」 「魔法?何よ、藪から棒に。あんた、魔法を使ってどうする積もりなの?」 「だってさぁ、魔法が使えたら、魔女みたいにほうきに乗って学校までひとっ飛びで行けるじゃん。それだったら遅刻もないし、こんなふうに走らなくてもいいしね」 黒髪の少女――薫が、肩をすくめながら呆れた表情で言った。 「あ~、分かった!あんた、夕べ深夜劇場でやってた『マリー・ウォーターと十二人の魔女たち』観てたんでしょ!?確かあれ、深夜二時までだったわよね。――さては、それで今朝起きられなかったのね!?」 「えへへ、ばれたか」のえるが、舌をぺろりと出した。「実はそうなのよ。それで、ちょっと寝坊しちゃってさぁ……」 「しょうがないわねぇ、もう。急いで、あと一分よ!」 のえるの腕を引っ張りながら、薫が正門に顔を向け、そして叫んだ。 「やばっ!今日はシュトラウス校長がいるわよっ!」 「ま、まじ!?ひい――っ!」 学園の正門が、前方百メートルほどのところに迫っている。その前に、壮年の男がひとり、立っていた。 音楽室のドボルザークの肖像画を思わせる、眼鏡と髭の端正な顔。
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