12人が本棚に入れています
本棚に追加
「それよりさぁ、薫、こんな時魔法が使えたらいいのになぁ~って、思わない?」
「魔法?何よ、藪から棒に。あんた、魔法を使ってどうする積もりなの?」
「だってさぁ、魔法が使えたら、魔女みたいにほうきに乗って学校までひとっ飛びで行けるじゃん。それだったら遅刻もないし、こんなふうに走らなくてもいいしね」
黒髪の少女――薫が、肩をすくめながら呆れた表情で言った。
「あ~、分かった!あんた、夕べ深夜劇場でやってた『マリー・ウォーターと十二人の魔女たち』観てたんでしょ!?確かあれ、深夜二時までだったわよね。――さては、それで今朝起きられなかったのね!?」
「えへへ、ばれたか」のえるが、舌をぺろりと出した。「実はそうなのよ。それで、ちょっと寝坊しちゃってさぁ……」
「しょうがないわねぇ、もう。急いで、あと一分よ!」
のえるの腕を引っ張りながら、薫が正門に顔を向け、そして叫んだ。
「やばっ!今日はシュトラウス校長がいるわよっ!」
「ま、まじ!?ひい――っ!」
学園の正門が、前方百メートルほどのところに迫っている。その前に、壮年の男がひとり、立っていた。
音楽室のドボルザークの肖像画を思わせる、眼鏡と髭の端正な顔。
最初のコメントを投稿しよう!