第一章 夏への扉 《The door to summer》

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背は高く、夏だというのに黒の三つ揃いをきちっと着込んだ様は、貴族の屋敷に勤める一流の執事を思わせる。 きれいに整えられた髪と髭は銀色で、彫りの深い顔立ちとともに、その男がヨーロッパ系の外国人であることを物語っていた。 ミッション系の名門校・聖陵学園付属中学舘須賀校の名物校長、リヒャルト・シュトラウス。穏やかな風貌とは正反対の厳しい指導で、全校生徒から恐れられている校長であった。 ふたりが全力疾走に移り、正門に駆け込んでいった。 「こ、校長先生、おはようございまーす!!」 「はい、お嬢さん方、おはようございます」 シュトラウス校長が、微笑みを浮かべながら言った。その手には、金の鎖の付いた年代物の懐中時計が握られている。 「八時二十九分五十七秒。あと三秒で遅刻でしたが、今回は何とかセーフでしたね。 しかし、遅刻ぎりぎりの滑り込みというのは、感心しませんね。特に、君たちは三年生。もっと落ち着きを持って、後輩のお手本になるようでなければいけません。 そうじゃありませんか。三年B組十一番、十文字のえる君。――それから」 シュトラウス校長が、黒髪の少女を顧みながらその名を呼んだ。
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