第一章 夏への扉 《The door to summer》

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「――三年B組十九番、間宮薫君」 「す、すみません、校長!」 のえるともう一人、薫と呼ばれた少女が声を合わせて言った。腕組みをして説教を続けようとしたシュトラウスが、ふと視線を上げて呟いた。 「おや、また一人走ってきました。今度は完全に遅刻ですね。後で生活指導の先生に厳しく注意してもらわなくては……。 君たちも、早く行きなさい。ホームルームが始まりますよ」 「はっ、はい!」 そう言って、自転車置き場に向けて駆け出そうとした、その時。薫の目に、見慣れない人影が映った。 校門の正面に立つ、三階立ての本校舎。 その右側には、瀟洒な円柱状の建物「本部棟」が立っている。その前に黒い高級外車が止まっていて、後部座席からひとりの人間が降り立とうとしていた。 金色の髪をした、外国人の少女。歳は十五歳くらいで、制服ではなくゆったりしたドレスをまとっている。その髪が朝の風にふわりと舞い、それを押さえようした少女がゆっくりとこちらを振り向いた。 大輪の薔薇の花のような、美しい少女。整った顔立ちの中で、青い目が宝石のように輝いている。 (えっ、あの子……誰?) 少女の背後に、黒い背広の男がふたり、立っていた。彼らに護衛されるように、少女はそのまま玄関の奥へと姿を消していった。 (……誰だろう。学園には、あんな子いなかったわよね。着ていたのもうちの制服じゃなかったし……) 「何してるの、薫!ホームルーム始まるよ!」 のえるの声。見ると、彼女はすでに数十メートルほど先で手を振って待っている。 「ああん、待って!置いてかないでよ、のえる!」 薫が慌しく彼女のあとを追う。――そして遠くから、静かに予鈴の鐘の音が聞こえてきた。
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