エピローグ

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御堂家の当主、御堂司の葬儀は近親者のみが参列する密やかな式となった。 僧侶の読経が続く中、喪主である義父の隣で恵里はぼんやりと夫が眠る棺を見つめていた。 あの最後の病室で思わず司の手を握った瞬間、微かに司の手が強張った気がしたのは気のせいだったのだろうか。 結婚式から数えて2度目に触れた司の手。 たった2回、司に触れることができたその2回目があんなタイミングとはいっそ笑えてくる。 最後まで妻である自分は何だったのだろうかと、恵里はそればかり考えていた。 病気のことも知らなかった。 正確には、箝口令が出ていたのを息子が気を遣ってこっそり教えてくれた。 食事を摂ることも減っていった司はますます書斎に閉じ籠るようになり、まともに顔を見たのは倒れた司を病院に運んだあの日だった。 思い返せば返す程、子供を生む以外に何も求められていなかったのだなと痛感した。 滞りなく告別式が進み、司の周りに沢山の花が置かれ、いよいよ蓋を閉めるときがきた。 「すみません」 聞こえた声に恵里が顔を上げると、友人達の中でも特に司と親交のあった長身の男が司の棺の前に立った。 「故人からの頼みです。これを、司の胸に置かせてください」 そう言って男が取り出したのはネックレスだった。 恵里がつけているデザインとよく似た指輪、そして指輪の中央でダイヤモンドがキラキラと揺れている。 「ちょっと待ってください」 思わず恵里は声を上げた。 直感的に嫌だと思った。 あれを入れてはいけないと。 なのに。 「構わない。むしろ、私からもお願いしたい」 「お義父様」 「せめて彼方では、一緒にいさせてやりたい」 男が義父に深く頭を下げ、そのネックレスを棺へと納めてしまった。 恵里の制止など喪主である義父の前では無意味だ。 棺の蓋が閉められ、二度と開かぬよう封じられていく。 恵里は両手を握りしめ震えながら、司と得体の知れぬネックレスが入った棺を見つめていた。
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