エピローグ

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会話が途切れ、中の空気が動く気配がする。 止まらない涙に気を取られ、恵里は咄嗟に足を動かすことができなかった。 扉が開き、出てきた義父とまともに目が合う。 「っ…」 「……恵里さん、これを」 握られた義父の手が目の前に差し出される。 反射的に広げた掌に落とされたのは、見慣れた結婚指輪だった。 傷一つなく綺麗な、今恵里が薬指に嵌めているのと同じ指輪。 「、どうして…これが」 「先ほど慎哉君から預かった。後にしようと思ったんだが聞かれてしまったようだからね。どうするかは貴方が決めなさい。これからのことも含めて」 指輪を見つめたまま呆然と義父の言葉を聞いた恵里が、ゆるゆると顔を上げる。 「……あの人が、司さんがしていた指輪はなんだったんですか?」 結婚式の日から、司が指輪を外しているのは見たことがなかった。 恵里との結婚指輪をしてくれている。 それは恵里にとって、唯一司から感じられる愛情だと信じていた。 「……御堂としての結婚の為に私が別れさせた司の恋人へ、司が生涯を誓った指輪だ」 「は…」 「司は結婚式の日からずっと、それではなく、自分と亡くなった恋人の為に用意した指輪をつけていた」 「うそ…」 「先ほど慎哉君が棺に入れていたのが、恋人の遺骨で作ったダイヤと指輪だ」 「うそ」 「御堂の為に貴方の時間を潰してしまったことを司にかわってお詫びする。これからの人生は自分の為に生きてほしい。御堂を離れるとこも、私は止めない」 義父が恵里に深く頭を下げ、慎哉を連れてその場を去った。 恵里は二人を見送ることもせず、掌に残った指輪を見つめ続ける。 指輪でさえ、恵里は欠片も思われていなかった。 司の心はずっとずっと、あのネックレスのダイヤに、司の恋人だった人に捕らわれていた。 恵里は、向き合うにも値しない人間だった。 「妻」という立場を与えられただけの、司にとっての道具だった。 御堂司の妻。 熾烈な競争を勝ち抜いてついたその座を誇りに思っていた。 恵里の 人生は なんと虚しいものだったのだろうかーーー Fin
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