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「思ったよりも時間がかかってしまってね、怪しまれずに日にちを今日にするの苦労したんだ」
「日取りを考えれば、今日は大安吉日で最適だろう」
「ふふ。向こうは本当はもっと早く挙げたかったみたいだからね」
右手の親指と人差し指で、挟んでいた指輪を床に落とす。
「おい、何を」
「俺がするべき指輪は、こっち」
そう言った司が胸ポケットからそっと取り出したのは、ぱっと見は落とした指輪と同じデザイン。
けれどよく見ればその材質から模様の描き方まで、比べ物にならないほど繊細に作られている指輪だった。
殊更丁寧に指輪を左の薬指へ嵌め、もう一度、今度は違うポケットから司が取り出したものは、全く同じデザインの指輪とキラリと輝く小さなダイヤモンド。
「それは…」
「零の骨で作ったダイヤだよ」
今度こそ驚愕の表情を浮かべた慎哉が司と司の手にあるダイヤを交互に見つめた。
その忙しなさが面白くて今日、否、零が死んでから初めて、司が声を出して笑う。
「首ふり人形みたいだな」
「っ…、どういうことだ。これが、零だなんて」
「慎哉なら遺骨ダイヤモンドは聞いたことあるだろう?」
「…それは知っているが」
「零の左手と、心臓に近い肋骨と、頭は絶対入れてもらったんだ。このダイヤを作る上で欠かせない部分だからね」
「だから、何故こんなことをっ」
確信を得ない説明に業を煮やし声を荒げた慎哉だったが、静かに見つめてくる司の目に息を飲み黙りこんだ。
いっそ不気味な程、濁りのない瞳はゆっくりと笑みの形に細められた。
「酷いと思わない?慎哉。零は俺ではなく御堂家のことを考えて身を引いたんだよ。零と一緒になるなら家を捨てるつもりだった俺に、御堂で生きていくのが一番の幸せだって、俺を捨てたんだ」
司が別のポケットから取り出したプラチナのチェーンに指輪と加工されたダイヤをスルリと通していく。
指輪の真ん中でダイヤが揺れ、キラキラと光に反射し輝いた。
「病気のことだって、俺は何も知らなかった。ずっと前から苦しんでいたはずなのに。そんなにも前から、零は俺を捨てるつもりだったんだよ」
俺には零だけだったのに。
まるで見つめ合うようにダイヤを目線の高さまで掲げて、司が愛しそうに目を細める。
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