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神聖な儀式にさえ見えるその光景に、慎哉はただ、黙って見ているしかできなかった。
「だから、これは復讐」
「……復、讐?」
「そう。零には、一番近くで見てもらうんだ。御堂の為に生きている俺が、零と一緒になれなかった俺が、何をしたって幸せとは思えずに生きていることを」
「……」
「見て、ずっとそばで見続けて、俺を置いていったことを後悔すればいいんだよ。生きて、そばにいるべきだったってね」
揺れるダイヤに司がそっと口づける。
「今日はその為の、零と俺の結婚式だ」
新婦に対する態度とは比較にならない程丁寧に、司は指輪とダイヤの揺れるチェーンを首に付けて、タキシードの中へと隠す。
呆然と立っている慎哉に笑って、出口へと足を踏み出した。
「さて、いい加減花嫁が待ちくたびれてるかな。あぁそうだ、慎哉」
「、何だ」
「悪いけどそれ、適当に捨てといて。いらないから」
それ、と司が視線をやった先にあるのは、慎哉の足元に転がったプラチナの指輪。
慌てて指輪を拾った慎哉だが、出口の扉に手を掛けた司を鋭い声で呼び止めた。
「何故、俺に話した。こんな、指輪まで捨てるような真似をして。新婦に報告するかもしれないぞ」
「慎哉が?まさか」
ハッと鼻で笑った司が振り返る。
「お前が、俺や零の不利になるようなこと、言うわけないだろう」
「何故断言できる」
「お前が零の主治医だったからさ」
目を見開く慎哉に、司が益々笑みを深める。
「詳しく聞くつもりはないよ。でも、これくらいの共犯者にはなってもらわないとね」
俺の溜飲が下がらないじゃないかーー
出ていく司を、慎哉は苦々しい思いで見つめる。
これなら、黙っていたことを責められた方が余程ましというものだ。
零を助けられなかった自責の念さえも利用してくる司を、憎めばいいのか感心すればいいのか分からない。
「……生涯、あいつらとは付き合う羽目になりそうだ」
大きくため息をついて、司が捨てた指輪をきつく握りしめた。
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