第二章

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気のおけない友人相手に司が何を話しているのか、恵里に対する態度とどう違うのか知りたかった。 「次は……あ、もう来月か。誕生日」 「そうだよ」 「じゃあ、遅くてもそこで会うね。またケーキ焼いていくよ、生クリームたっぷりで」 「ありがとう。きっと喜ぶ」 「じゃあ、来月ね」 「気を付けて」 誕生日? 誰の? バタンと扉が閉じる音と、1拍遅れで2階へと遠のく足音。 恵里は今すぐその足音を追いかけたい衝動にかられた。 来月なんて、誰の誕生日でもない。 恵里だって違うし、司自身のはずもない。 友人とも違う。 だって、 あんな、 あんな甘い声音を出す対象が、友人なわけがない。 一体誰の誕生日だというのだ。 まさか、仕事が忙しいというのは口実? けれど確かに司は朝早くから夜遅くまで会社に行っているし、帰ってきたって書斎に籠りきりだ。 部下が、いい加減休むよう懇願している姿もよく見かける。 あんな仕事漬けの人に女の影なんて想像もできなかった。 「あれ、そういえば……」 一度だけ。 どうしても寝付けずに家の者数人についてきてもらって、散歩をした夜の庭。 何気なく見上げた先が司の書斎の窓で、煌々と光る室内にまだ仕事をしているのかと驚いたことがあった。 もしかしたら息抜きに司が窓に来るかもしれないと期待して見ていれば、案の定司が窓際に現れて。 けれど、下になど見向きもせずに月へと視線を向けたまま首元ーーー そう。 首元から何かを取り出し、月に掲げていた。 結婚指輪以外でアクセサリーをつけているとこなど見たことがなかったのに。 遠目でもハッキリとわかる。 掲げた、おそらくはチェーンの先を愛しそうに見つめる司。 あのときは、初めて見る司の表情が衝撃的で頭から抜けていたが、あのネックレスはなんだったのだろうか。 「まさか、あれの送り主が…?」 いつも会っているわけではない。 けれどもし、あれが司の愛人が贈ったものだとしたら。 会えない分、肌身離さずつけていても不思議じゃない。 来月の誕生日だけは司の友人達も一緒に祝っているのだとしたら。 先程の会話も、司の愛人のためにケーキを焼くという話で納得できる。 「友人公認の…愛人?」
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