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そもそも父はどんな人間だったのだろう。 人生の大半の時間を共にしたはずの父の事すら、僕はその人格をきちんと話すことすらできない。 覚えている限りで一番古い父の記憶は、車を運転する父の姿だ。その時どんな車に乗っていたのかも、どこに向かっていたのかもわからない。 運転する父の姿を見て、後部座席からそれを真似た。当時はまだミッション車が主流であり僕は両手でハンドルを握る父を真似ながら、時折クラッチとブレーキを足で自在に操る父を見ては自らもそれを真似て、足元に丁度良くあった小さな取っ手に足をかけた。その瞬間、助手席に座る母の背もたれが大きく傾き後部座席に座る僕の方へと倒れてきた。 「あー、びっくりした!もぉ、何やってるのよ!」 そんな事を母に言われたと思う。 そうか、これは踏んではいけなかったんだ・・・・そんな事を思いながら、母に叱られたことよりも、それ以上父の運転の真似事ができない事の方が残念だった。 父は多趣味な人だった。中でもバイクには相当陶酔していた。 記憶の中の父はいつでも1000CC以上の大きなバイクに乗り、休日は仲間たちとツーリング三昧。     
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