プロローグ

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プロローグ

後悔という言葉は、「後から悔いる」と書く。 人はどんな時に後悔するのだろうか。 殺人とは、「人を殺す」と書く。  人はどんな時に人を殺すのだろう。  究極に他人を傷つけたくなった時・・・・  人生が上手く行かない時・・・  むしゃくしゃした時・・・  ある種の思想に取り憑かれた時・・・  抱えきれぬ程の恨みを抱いた時・・・  どれも、明確な意思の元に行われる。こうした明確な意思の元に行われた殺人者は、果たして後悔するのだろうか。 僕は・・・気づいたら、父を殺していた。 僕に明確な殺意はあったのだろうか。今となっては、それさえもわからない。 ただ、僕は今も警察に逮捕されることなく、今までと然程変わらぬ生活を送っている。 父が死んだことで今は少しばかり毎日が慌ただしいが、これも一時のことだろう。数ヶ月もすれば、僕の生活はすっかり元どおりになることは、容易に想像ができる。 なぜなら、僕はこの後も決して警察に逮捕されることはないからだ。 でも、僕は確かに父を殺した。 これはある種の、完全犯罪ではないだろうか。 ただ一般的な犯罪と違うのは・・・・・・。 僕が意図して行ったわけではなく、結果的にそうなった・・・ということだ。 例えるなら、ゴールド免許の優良ドライバーがたまたま想定外の状況に出会い、人をひき殺してしまった。そんな感じだろう。しかし、その場合、そのドライバーがどんなに素晴らしい人格者であっても、逮捕される。 でも、僕はされない。 果たして、僕の罪とはどれほどのものなのだろうか。 あの日ぼくは、確かに父を殺したのだ。 大好きだったはずの、父を・・・・。
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