バーにて

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「へぇー、心ねぇ。」 「そうですとも…人と人、心と心…物やお金じゃないです。この世の中、一番大切なの は、ここ…心ですよ。」 そう言ってバーテンは拭きかけのグラスをテーブルに置き、心臓部を指差した。 「や、面白い考え方だとは思うよ。けどさ、僕なんかが社会に出て思ったのはサ、やっぱ『形』が大事なんだなって事。誰だってまず外見で判断するじゃない。」 チェイサーに指を浸すのは、どこぞの有名女優がやっていたもので、特にこの癖について僕は何も考えた事はない。 「心、心って言うけど相手の心なんて所詮自分自身の妄想だと思う。相手が何考えて ようが関係ない。要は、表面でどんな演技をするかだよ。」 指を浸すのにも飽き、ネクタイで拭いた。 「あなたはお若いから考え方が直線的でいいですなあ…」 グラスを置いた。カタンという音が心地よい。 「マスター、スコッチをダブルで頂戴。」     
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