【一の巻】華と月

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「よかった。まだいたんだな、清月(せいげつ)」  窓辺に座していた黒の着流しの男――清月は、部屋に入ってきた虚無僧姿の、やはり年若い青年に向かって、薄く笑みを浮かべた。 「どうした、鬼伯(きはく)。何かあったのか?」 「いや……そうじゃないんだけどよ……」  鬼伯は手にしていた編笠を畳の上に置き、窓辺に座して十六夜の丸い月を眺める清月の傍らへと歩いてきた。清月とは対照的な、艶のある白い髪を背中で揺らしながら。 「なあ、清月。今回の館林(たてばやし)の仕事……けっちまおうぜ」
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