8人が本棚に入れています
本棚に追加
がんがん銃弾が防御壁に当たっている中、わたし達はとにかく出口へ逃げた。
その間に倒れた人や痛みに呻く人、もはや息をしていない屍を見かける。その度にルキが美しい瞳を揺らすものだから、どんだけお人好しなんだと舌打ちしたくなった。
さすがに、両腕でミラを抱えたルキは手を差し伸べはしなかった。
レアルーシアは何を見ても感情の読み取れない無表情で走る。…なんだろう。改めて振り返るとミラの手当てをしているときからちょっと雰囲気がおかしい気がする。気のせいか?
甘い女に似合わない、まるで氷のような無表情をしている。
ユラは、ミラだけを気にしていた。走りながらも、蒼白な顔で、落ちそうなほどに大きな桃色の瞳を時折向けるのはミラだけ。
腹立たしいのはホフチャラクだ。にたにた笑いながら弾むように走る。まるで愉しんでいるようだ。自分のサーカス団を滅茶苦茶にされているとは思えないほど愉快そうだ。
…こいつ、なんで防御壁で自らを覆えるんだ。魔女なのか?わからない。わたしは、リヤーナ14世になってから魔女に会ったことなんかないのだ。だけど、ホフチャラクに魔女であるような素振りはなかった。ああでも、こいつマジで訳わかんないからな…。
防御壁に阻まれてガツンガツンと銃弾が地面に落ちる音を聞きながら、必死になって走っているわけだが、雨あられと降り注ぐ銃弾に違和感を感じる。
…そんなに大勢の銃所持者が紛れ込んでいたようには思えないのに、弾切れにならないのって、おかしいだろう。
銃が更に進化しているのか?それとも、誰かがどこかに匿っていた?
近くでにたにた笑うホフチャラクを見る。
「まさかとは思うが、お前が匿ってたわけじゃないよな?」
ホフチャラクは、表情を一切変えないままで楽しそうに答えた。おちょくるような声音で、じゃれるように。
「なぜ『まさか』と思うのですかぁ?」
「…お前が、匿ったのか」
「正確に言うならば、匿ったのではなく受け入れたのですよぉ〜」
ミラしか見ていなかったユラが、こちらを向いた。
火傷しそうなくらいに苛烈な怒りのこもった目で、ホフチャラクを見る。
「なぜ?」
たった一言の短い問いは、ユラのものとは思えないほど低い声で紡がれた。
ホフチャラクは、笑いながら首を傾げた。走っているというのに器用な奴だ。
「今は逃げることが最優先だったのではないですかぁ?」
「お前っ…!」
「ほらほらぁ、ミラが辛そうですよぉ〜?」
「ユラ、抑えろ。もうすぐテントから出られるから」
わたしがたしなめれば、ユラはぐっと唇を噛んで頷いた。
テントの出口は、もうすぐそこだった。
最初のコメントを投稿しよう!