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薄汚れた路地裏で、わたしは盛大に口元を引きつらせていた。
ここはわたしの縄張りで、唯一少しは安心できる場所だっていうのに、なんていうことだ。
「だ、れだっ……!」
「お前がな!!」
なんで寝床に血まみれの男が寝てんだよ!?
聞いてない!聞いてないぞ!わたしはそんなこと!
ここはゴミがいい感じにクッションになるゴミ捨て場だ。臭いが、ずっとスラムにいれば多少の臭さは気にしなくなるから良いのだ。
しかし、血まみれで明らかに怪我している野郎が横たわるにはどうかと思う。けっこう虫いるし。
というか、なんだこいつ。めちゃめちゃ顔整ってるし、汚れに汚れてる服はよく見ればかなり高価そうだ。まるでお貴族サマみた……い、いや、考えてはいけない。そういう面倒臭そうなことは考えてはいけない!
とにかく!面倒臭そうな臭いがプンプンするこの男をどうにかせねば!!
「お前!そこはわたしの縄張りだ!出て行け!」
「縄張り?野良猫か?」
「喧嘩売ってんなら買ってやるよ?」
血まみれでぐったりしている男なんぞ、瞬殺だぞ?
にっこり笑ったわたしに特に反応はせず、男はただ息を吐いた。ひどく疲れたように。
まあ、その身体の状態で疲れてないわけがないだろうけど。
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