娘は巻き込まれる

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わたしは諦めの境地で、静かに男の隣に座った。 がさっとゴミが音を立てる。 「そんなのは些細なことっしょ」 「そんなわけあるか」 「おうおうおう、けっこーやられてんな。 なんとかなるかなー」 「話を聞け。服をめくるな。痴女か」 「痴女ではない」 そこは否定しよう。他はスルーだ。 ぺろっとめくった服の下の割れた腹はざっくりと大きな傷があって、深いようですごい血が出ている。 どうやら額にも傷があるらしい。 というかどこもかしこも傷だらけだ。 これはやばい。こいつよく喋れてるな。痛覚麻痺してんのかな。 「他人にやるのは初めてなんだよなぁ。はー、緊張する」 「…途轍もなく嫌な予感がする」 「そんなことないって!少し治療するだけ」 「治療?」 胡乱な目を向ける男。 わたしは息を吐いて、光り輝く星を見た。 “リヤーナ”。世界を照らす一番星。 わたしは、“彼女”の意思を継ぐ者。 リヤーナ14世。 体を渦巻く魔力を喉元に集める。 このままにはさせておけないのだ。やらなくてはいけない。 どれだけ面倒であろうとも、わたしがリヤーナ14世である限り。 「傷を塞げ、痛みを和らげろ」 魔力を声に乗せて呟いた。 声は空気を震わせ、辺りを漂う魔力に干渉する。 そうして、ざっくりやられていた腹の傷は瘡蓋になった。
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