お姫様は愛を歌う

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☆☆☆ つぶらな(まる)い目が不思議そうにこちらを見ている。 早朝、鶏小屋の中にて。わたしの前には深く頭を下げるギアス。あ、寝癖発見。 「助けてほしい」 わたしが来たときには既にここで待っていたギアスは、わたしを一目見た途端に頭を下げてそう言った。そしてそのまま動かない。 ため息を吐いた。まったく、どいつもこいつも。あやふやなことばっかり言いやがって。 つぶらな円い目をした鶏は、未だにわたしとギアスを凝視している。ワタシのテリトリーで一体何をしているのかしらん?想像だけど、そんな感じで見てる。心なしか圧を感じる。気のせいだと、思う。うん。気のせいだといいなー。 思考を彷徨わせながら、わたしはギアスのつむじを見ながら言った。 「断る」 「なんで!」 「逆に聞くけど、わたしにお前を助ける義理があると?そもそも、何も知らずにハイハイ助けるよーなんて言うわけないだろ。阿呆じゃないんだし」 がばっとギアスが頭をあげた。綺麗な翠の瞳が、焦燥の色を滲ませてわたしを見る。縋るような目だ。 「じゃあ!説明したら助けてくれるかもしれないってことか!?」 「うーん、対価によるな」 「たいか?」 キョトンとしたギアスに笑う。たぶんコイツはちょっとわたしという人間を誤解している。 「わたしは優しい聖人君子じゃないんでね。何かしてほしいんなら、その対価は貰わねーと」 わたしは、そこら辺の妥協はしない。たとえ相手が子どもだろうと、関係ない。 「たいか…。そうか、たいか…」 しばらくの沈黙の後、ギアスは真っ直ぐにこっちを見て言った。 「助けてくれんのなら、オレはリヤーナとルキをこのサーカス団から逃す」 「対価はわたしとルキの自由ってわけか。うん、それ自体は悪くねぇな。 それで?」 わたしはくいっと顎をしゃくった。 「具体的に私に何をしてほしいんだ?」 ギアスは、ぎゅっとまだ小さな手を握って答えた。 「ミラを、元に戻してほしいんだ」 …ん? 「ユラのことじゃないんだな?」 「ユラのためには、ゼッタイ必要なことなんだ」 そう言って、ギアスは笑った。泣いてるような弱々しい笑顔だった。 聞こえてしまった小さなつぶやきに、失恋したのか?なんて思った。だってギアスってば「オレじゃ、ダメなんだ。ミラじゃないと…」なんて言うもんだからさ。 ていうか、もうこれはミラとユラの問題に首を突っ込まなきゃなんねぇってことだよな。あーもー!“リヤーナ”が激怒してるし、腹括るわ!
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