お姫様は愛を歌う

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言いたいことはわかった。 ミラはホフチャラクと交渉して魅了の魔法を使うことになった。その代償として最愛たるユラの記憶を失った…ん?ちょっと待って。 「記憶を失う?最愛の消失ってことは、存在そのものの消失って訳ではないのか?」 「それはわかんないけど、ユラが消えることはないと思う。それは契約違反だから」 「契約違反?」 「ホフチャラクがユラに言ったんだ。ミラの願いはユラが“健やか”であること。ホフチャラクはユラを“健やか”にする。その代わり、ミラはホフチャラクの為に魅了の魔法を使う。そういう、契約だったんだって」 んんー? 「でも、ホフチャラクはユラを草原に置き去りにしようとしてなかったか?」 あのえっぐい広さの草原に! あの!えっぐーい!広さの! 「…それが、よくわかんないんだ」 ギアスが唇を噛み締めた。緑の瞳に剣呑な光が宿る。 「ホフチャラクのしようとしたことは、契約違反だ。契約違反には、死が与えられる。そうだろ!?」 …約束は守らねばならない。 青空みたいな瞳を冷え冷えと凍らせて、彼は告げた。 そうして世界に巡った魔法は、見えない鎖だった。契約は、その鎖を自らの首に巻くこと。契約違反者は、その鎖で首を絞められる。彼が創った世界の(ことわり)。 だけど、歪なあの魔法に使われているものがロワの遺骨なのならば…。 「あ、駄目だ。頭がこんがらがってきた…」 考えるのは苦手なんだって! 「べつに難しく考えなくたっていいんだよ。 助けてくれるのかくれないのか、どっちだ!」 そうだよな!お前にとっちゃそうだよな! 「そもそも、なんでわたしなんだ?」 最近会ったばかりの学のなさそうな女に助けを求めるってのがおかしくね? 「魔女だから。魔法のことは、魔女に頼むべきだと思って」 魔女という言葉を口に出す時の只人には珍しく、緑の瞳には侮蔑も嫌悪もなく、ただひたすらに真摯だった。 たぶん、なんだかんだ言って最後の最後の決め手はそれだった。 「…しゃあねぇな。ここらに魔女は、わたしくらいしかいないもんな」
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