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「ならば私が愛を与えましょう」
聞き慣れた低い声が舞台上から聴こえて、わたしはひくりと片頬を引きつらせた。
案の定、舞台には高価そうな衣装を着た金髪碧眼の王子様…ルキが立っていた。立っていたって言うか、歌っていた。
うっそじゃーん。
イイ声でイイ感じに歌うルキに観客の女性と一部男性がうっとりしている。ルキ!貞操の危機だぜ!気をつけな!
じゃ、な、く、て!
「あいつっ!また魅了されたのかよ!?」
懲りないー!終わりがないー!
ミラはうっとりしていて、桃色の瞳には闇が滲んでいる。そしてミラを見るルキもうっとりしている!二人して頰を染めているその姿はまさにお互いを想い合うお姫様と王子様。演技かとも思ったが、アレはマジだ。紛うことなくガチだ。
いやだぁ。面倒ごとが起きる予感しかないー!だってルキってば追われてたんだぜ?目立ってどうするよ!
しかしルキは歌う。熱烈な愛の歌を情感たっぷりに歌いまくる。ひいいい!聞いてるこっちが痒い!
全身を掻き毟りたくなったが耐えた。舞台裏でドタバタしていたら絶対に大目玉を食らうからな!それくらいはわたしにだってわかるのだ。
しかし、どうするかな。
ルキの魅了の魔法を消したいが奴は舞台で歌っている。目立ちまくっているのだ。今消すのはどう考えたってナンセンス。まあこっからじゃ物理的にも難しいのだけども。
とりあえず不審な奴はいないか観客の方でも見てるか…うげぇ、見事にほとんどの観客がうっとりしてやがる。
マジでー?こんなのがイイのー?マジでー?
虚ろな目になりつつも観察を続けたが、特に不審な奴は見当たらなかった。まあ、大丈夫そうかなぁ?今のところは。
ほっと一息ついて視線をルキの方に向けようとして……わたしは、ぼうっと舞台を見る亡霊…のようなユラを見つけた。
え、怖っ。
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