お姫様は愛を歌う

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綺麗な桃色の瞳は虚ろで、か細い体がゆらりゆらりと揺れながらゆっくりと動く。スポットライトに照らされて、キラキラ輝くお姫様の方へ。 細い細い腕が伸ばされる。形の良い、だけど血色の悪い薄紫色の唇が薄く開いて、何か呟いた、ようだった。駄目だ、こっからじゃなんて言ったのかはわからない。唇の動きだって小さすぎて呟いたかどうかさえはっきりとはしない。 虚ろな瞳はただただミラだけを見つめていて、ミラだけしか見えないみたいで。 …なんか、ヤバイ? 何がヤバイのかどうヤバイのかまるきりわからないけど、でも、なんか、すっげえ不気味で狂気を感じる。 まるで“記憶”の中にあるリヤーナ6世みたいだ。 どうしようか。そばに行った方がいいのだろうか。わたしが逡巡していると、ミラがふっとユラの方を見た。そうして……笑った。花が咲くような満面の笑み。幸せで満たされているというような ユラの顔が歪む。眉間に深いシワができる。食いしばった口元から歯ぎしりの音が聞こえてくるような気がした。虚ろだった瞳に光が宿る。その、光は。 「しあわせ。あなたの愛が、わたしの全て」 ミラが歌う。幸せを、愛を。 ミラが笑ったのは演出で、歌姫だからだ。そして歌姫だから、愛の歌を歌う。これはそういう演目で演出だ。大勢の観客が魅了されて虜になって、うっとりする。そこに、たった一人憎悪の光を宿す少女のことなど慮る余地などない。当たり前だ。きっとこれは、そういうものだ。 だけど。 まるでユラに見せつけているように感じるのは、気のせいか?
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