お姫様は愛を歌う

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歌は盛り上がりどころらしい。ミラは“王子様”の方へ熱い視線を向ける。鮮やかな赤い紅を塗った唇が動いて、綺麗な声が高く強く響く。 それに寄り添うように、ルキの低い歌声が重なる。 そうして手を伸ばして、二人が、手を… 繋いだその時、響いてはいけない音が響いた。 わたしの中の“リヤーナ”が悲鳴をあげる。何故、何故ここにソレがある。 リヤーナ14世(わたし)には幸運なことに、ソレを受けたのはミラだった。白く美しい手の甲から、赤い血が鮮やかに吹き出す。 響いたのは銃声。轟いたのは観客の悲鳴だった。 舞台裏からも悲鳴があがる。厳しい表情をしたレアルーシアがミラに駆け寄る。 ミラは、手の甲から血を流れさせながら苦悶の表情をしている。だが、恐らく血を止めれば致命傷にはならないだろう。 わたしも舞台裏から飛び出し、ミラに寄り添っているルキの元へ走った。ミラの手を必死に圧迫して止血しているレアルーシアを傍目に、ルキにかけられた魅了の魔法を解き、ルキとわたしの周りに魔力でできた透明な防御壁を構築する。 「…っ、俺はまた……いや、それより、さっき飛んできた鉄の塊はなんだ」 また魅了の魔法にかかっていたことによる複雑な心境をひとまず置いたらしいルキは、顔を強張らせて客席の方を見渡す。 ……鉄の塊、ね。 やはり、暗黒期に失われた“銃”という武器は、わたしたちが脱出したあの国では未だ開発されていなかったか。 それならば、やはり。 「ルキ、逃げるぞ」 「…ああ。ミラは俺が抱える」 「置いていけ」 ピタリとルキの動きが止まった。綺麗な青い瞳がわたしを見た。何故と問うその瞳を睨みつける。 「まだ魅了されてんのか、アホ。守んのは一人が限界だ」 「俺は、守られなくとも」 「飛んできた鉄の塊になすすべもない癖に結構な態度じゃねぇか。行くぞルキ!」 ぐだぐだと言い募るルキの手首を掴んだ。強引に連れて行こうとするも、首を振るルキの力に敵わない。そりゃそうだ。だってこいつは男でわたしは女で、余計なことに魔力は使いたくないし。 「見捨てない」 「馬鹿!周り見て物言え!」 逃げ惑う客と舞う血しぶき。あちこちからあがる悲鳴と銃声。防御壁に当たっては跳ね返る鉄の塊。 こんなとこで言い争ってる場合ではないのだ。何故それがわからない?
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