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苛立つわたしを見ずに、ルキはレアルーシアを手伝いながら言った。
「見捨てたら、俺は後悔する」
…くそう。絶対に一人じゃ逃げねぇな、こいつ。
しょうがねぇな。こうなったらミラに治癒魔法使った方が生存率上がるか?わたしが考え始めたところで、かぼそい声が耳に届いた。
「…どうして」
いつの間にここにいたのか。ユラが桃色の瞳を虚ろに揺らして、ミラを見つめていた。
「どうして、ミラなの。どうして、いつもいつもいつもいつも…どうしてっ!」
桃色の瞳に光が生まれた。ゆらゆらと湖面のように揺れた美しい瞳は、ほろりほろりと雫をこぼした。
「どうして、わたしからミラを奪っていくの…」
震える声が落ちたとき、苦悶のために閉じられていたミラの目が開かれた。蒼白な顔をした愛らしいお姫様は、ユラを見て呆然と呟いた。
「…だめ、それは、“契約違反”よ」
ガツ!!という衝突音が響いて、目をやれば、ユラの足元に銃弾が転がっていた。
…は?
「ミラ、お前、今何した?」
「“契約”は守られなければならない。だから、だめなの。ユラは、あたしより先に死んじゃいけないの」
うわ言のように、言って、ミラが笑う。
脂汗の滲んだ顔に浮かんだその笑みは、晴れやかなものだった。
「でも、なんであたしより先に死んじゃダメなのか、わかんないや…変なの」
「それが“契約”だからですよぉ」
この場に似合わない、のんきな声を出してやってきたのは、ホフチャラクだった。
団長だというのに、全く動じず嘆かず、むしろどこか愉しげに、悠々と歩いてくる。
わたしはその姿を見て目を見開いた。だって、ホフチャラクの体を透明な壁…防御壁が覆っている。銃弾は防御壁に当たって弾かれている。
「どうやらユラは勘違いをしていたようですが、ミラの願いはユラが健康でいることなんかじゃありませんよ〜。
ミラの願いは、ユラがミラより先に死なないこと、だったんですぅ」
カツン、カツンと銃弾が跳ね返る中、ホフチャラクは笑う。
ユラが目を見開いて、か細い声を出した。
「勘違い…?あなたが、わたしにそう言ったんだったよね?」
「わざわざ情報を与える必要ないじゃないですかぁ。もー、人の言うことを鵜呑みにしちゃあいけませんよぉ」
「な…」
ユラが再び口を開いたところで、わたしは痺れを切らした。
「それは今言い合うことじゃねぇ!とにかく逃げねぇと死ぬぞ!ホフチャラクを問い詰めるのはその後だ!」
わたしは阿呆なルキに免じて防御壁の大盤振る舞いをした。ミラ、ユラ、レアルーシアにも防御壁を構築してやったのだ。
三人がハッとした顔をしたのを見たルキを睨みつける。
「…これで良いだろ。逃げるぞ。」
ルキは怪我をしているミラを横抱きにして、走り出したわたしについて来た。
けっ!やっぱり魅了の魔法にまだかかってんじゃねぇの?
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