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草原の地平線などというものは、ここに来るまでは見たことがなかった。
どこまでもどこまでも、緑の絨毯が風にたなびいていた。
「真人ーっ、俺たちからあまり離れるなよ」
その声に振り向いて、俺は近づいてくるその仲間に手を振った。
怒った口調で眉根を釣り上げているが、それは心配の裏返しで不機嫌な訳ではない。いつもは頭の上にピンと立ち上がっている三角の耳が少しだけ後ろに倒れ、立派なしっぽが気がかりそうにユラユラと揺れている。
彼は、茶から金色のグラデーションの毛並みを持つキツネの獣人で、名をヤトと言う。何を隠そう俺のご主人様だ。その辺の理由は、まあ話せば長くなるんだけど…、いわゆる俺は奴隷というやつである。
「ごめんごめん、それより見ろよ、ここ!依頼のポポ草がたくさんあるぜ」
「あっ、本当だ。流石だねー、相変わらずこういうの探すの得意だよね」
そんなことを思いつつ呑気に答えた俺に、にゅっと横合いからいきなり現れたのは、彼の妹のルルゥ。
「わっ!びっくりした。気配消すなよ、驚くだろ」
「消してないよ、真人が鈍いだけじゃん」
腕の間から顔を出したものだから、思わず飛び上がるほど驚いて文句を言ったが、彼女はあっけらかんとしたものだ。
そりゃ君たちに比べたら、俺は鈍いけどね。足元に座ってせっせと薬草を摘み始めたルルゥに、苦笑交じりのため息がもれる。
ちなみに彼女もキツネの獣人である。彼女の毛並みは、珍しい白である。愛らしい顔立ちの彼女に似合った、ふんわりと柔らかい毛並みだ。目も赤いことからアルビノだと思われるが、どうやら彼女はこの毛並みのせいで一族からは異端扱いされたらしく、兄と共に冒険者になり外の世界へ飛び出したということだ。
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