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黒縁の伊達メガネは、異国人めいたその顔を隠すために選んだアイテムだった。人に倣えの日本人の中で、少しでも周りから浮くことは即、孤独につながるからだ。ましてや、学校という小さな檻の中ではなおさらである。
目立ちたくないと控えめに過ぎた態度が、かえって浮いてしまったことは不幸ではあった。いわゆる、「モテるくせにお高くとまって」となるわけだ。むろん言いがかりも甚だしいが逆恨みとはそういうものである。そして一度そうなってしまうと、なかなかその#役割から抜け出せなくなる。
事実、俺よりもずっと日本人離れした兄や妹は、どちらかというとクラスの中心的存在であり、異性からも人気があった。
納得いかないよね、ほんと。
「さっきから、顔に水滴が…なんだろう」
ともあれ、容姿的のことはともかく、俺には誰よりも特殊な事情があった。
それは「視える」ことだ。
いわゆる、霊と呼ばれるもの。
小さな頃から、いるはずのないものを視ては、ぶっ倒れて熱を出して寝込んだりもした。そう、霊障を受けやすい体質なのだ。もとはといえば、人となんとなく距離を置くのも、自然とそうなっていったという事情があった。
こうして晴れているのに雨が降っている現象も、いつもの不可思議な出来事の前触れかもしれない、といささか面倒くさそうに眉を顰める。
そして一瞬、空に気を取られ眩しそうに眼を細めた時。
――どこかで運命の歯車のようなものが外れた気がした。
雲ひとつない空が、いきなりフラッシュを焚いたような光を放ったのだ。
「っ!?」
びっくりして目をつぶった刹那、雷が落ちたような轟音に耳を塞がれ、その直後、雷とは違う金切り声のようなヒステリックなブレーキ音を聞いた。けたたましいクラクションの音が重なり、いまだ光に眩んだ目を見開いて振り向くと、そこに飛び込んできたのはコントロールを失い標識をなぎ倒しながら迫る大型トラックの姿だった。
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