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赤い――。
視界が、とにかく曇ったように赤く塗りつぶされていた。
遠くで誰かが泣いていた。
泣いて、俺の名前を呼んでいる。
妹の声だ。
事故ったんだな、とぼんやり考えた。この様子だと妹は無事だったらしい。
よかった…巻き込まれなかったんだ。
遠ざかりそうな意識を必死で繋ぎつつ、辛うじて動く視線だけをゆるく彷徨わせる。
目の前に、ごろりと無造作に腕が転がっている。手のひらを上に向けて、おかしな方向に曲がっていた。俺の視界が赤いからなのか、それもおびただしい血に染まっている。
そしてどこか冷静な思考が、それを自分の腕だと認識した。
ああ、まずいな…、これ利き腕じゃね?
ある意味のんきな感想ともに、次第に意識は黒く塗りつぶされていった。
――外れた歯車が、あるべき場所に嵌って静かに回りだした。
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