4. 感動する小説を書くのは

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 感無量、と言うやつである。  感動する小説なんざ、けっ、一行たりとも書けはしないが、今の僕自身は『感動』の二文字に浸りきっている。なんとあの、九王沢さんと浴衣デートで花火だ。ゲームなどでは定番のイベントだが、なぜこれが定番なのか、よく分かる。やっぱり定番って外しちゃいけないのだ。  あの九王沢さんと腕を組んで、夜店を歩く。ブーン、と言う夜店の発電機のモーター音が辺りに響き、チョコバナナ、りんご飴、亀釣り金魚釣り、射的などの屋台には浴衣を着たカップル連れが通りすがる。近所の子供たちがはしゃいで走り回る。  他の女の子ではありえないが、九王沢さんのすごいところはそのすべてが未経験だと言うことだ。 「那智さんっ!すごいですね、縁日って!わたし、帰りたくなくなってきちゃいました!」  子供みたいに目をきらきらさせて、どこまでも僕の腕を曳く九王沢さん。じゃんけんでチョコバナナを一本余計にゲットして、テンションは最高潮だ。僕もお祭り見物なんて、久しぶりだったが楽しかった。     
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