5. ローズレッドな魔法の時間

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 僕は疑問なく頷いた。何となくだが、言いたいことは分かる。例えば今打ち上がっている花火だって綺麗なものだが、それは観衆が『綺麗だ』と言う価値を与えなければ、『綺麗なもの』になり得ないと言うことだろう。見方がうがちすぎた概念のように思えるが、まあ、納得できない話じゃない。 「今、わたしたちは『綺麗だ』と言う概念を共有しています。だから花火は『綺麗』なのでしょう。確かに理屈は通っています」  しかし、と九王沢さんはなぜかあえなくかぶりを振るのだ。 「さっきの言葉に戻ります。しかしスタインは、このフレーズの意図を言及していません。彼女はただ、この言葉の響きが『楽しい』から、詩にしたのだ、と述べています」  スタイン自身の著『アリス・B・トクラスの自伝』において、このフレーズを延々と繰り返し、彼女のシンボルのように扱うといいと言ったのは、スタインの秘書であり終生の世話係だったアリスだったのだ、と言う。 「この言葉に、本来定義はないのです。つまり、どのように読む人がイメージを持っても自由なのだ、とスタインは表現したかったとわたしは解釈します。同時に、それは『人を感動させるもの』と言うことの本質を衝いていると、わたしは思うんです」 「本質?」  また花火の音が、轟いた。あの薔薇の花の色だ。また、九王沢さんの顔に紅色の照明が当てられたようになった。 「ちょっと思い出して下さい。わたしたちはこの言葉をもう一つの意味で、イメージすることが出来ると思います。那智さんはその風景を、わたしと、イングランドで見たことを憶えていますか?」 「薔薇を?」  言われて、僕はようやく思い出した。そう言えば九王沢さんの伯母さんが経営するコーンウォールの大農場で一面の薔薇園(ばらえん)を見たのだ。
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