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Rose is a rose is a rose is a rose…
そのフレーズは、薔薇園を管理しているお婆さんが言っていたのだ。
「お嬢様に教わったのよ。誰のかは忘れたけど、いい詩よ」
体格のいい、白髪の綺麗なイングランド人の女性だったが、彼女は九王沢さんに教わったスタインの詩がお気に入りで、ずっと口ずさんでいたのだ。目の前の光景に僕も一瞬、目を奪われた。なんとそこには麗らかな初夏の陽に蒸れて、海のようにして咲き誇る見頃の薔薇の花々が群れていたのだ。
ただ、息を呑むしかなかった。
そこにあるのは、それ以外に何も考えられなくなるほどの薔薇であり、薔薇であり、薔薇であり、薔薇であった。
「こう言うしかないでしょ?」
肥った老婆は朗らかに微笑むと、ちょっと肩をすくめた。
「今のあなたみたいにただここに立って、見上げれば誰にでも分かるのよ」
「美しいは、美しい。綺麗は綺麗」
九王沢さんは僕の横で歌うように言った。
「感動するものは、感動する。それで、いいんです」
ぴったりと、九王沢さんは僕に身体を寄せてきた。その途端、僕たちに目を見張るような紅色の光が降り注いだ。すぐ傍の夜空一面に、大輪の薔薇が咲いていた。思わず、次ぐ言葉を喪った。
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