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1. 真夏のトンデモ焼きそば
廃油のようなどす黒い汁に、どっぷり麺がつかっていた。
それがほかほかと湯気を上げて、堂々と食膳に上ったのである。僕はもう、どこから突っ込んでいいのか、それすらも分からなかった。ともかく、
「これってさ」
「焼きそばじゃないですよね」
何か続きを言う前に、押し被せてくる九王沢さん。一応分かってはいるようだ。今日も混じりけ無しのストレート、超弩級のお嬢様ぶりを遺憾なく発揮してくれている。
だいたい、嫌な予感がしたのだ。九王沢さんが部屋に来ると言うので、お昼はどこかに食べに行こうかな、と思って候補になるお店を物色していたのだが、
「これ、なんでしょうか?」
いつの間にかしっかりと、買い置きのインスタントの袋焼きそばのパッケージをゲットしていた。それをあのHカップの豊かすぎる胸に押し付けるように握り締めて立っていたのだ。自分の子供を慈しむみたいに。
恐らくどうあっても、僕が説明しない限りはずっとあのポーズでいる気だろう。そして僕がそれが何かを話したら絶対に言うのだ。
「お昼はこれがいいと思います」
九王沢さんの魅惑の瞳があんなにらんらんと輝いて、それを真っ向から否定できるような人間は恐らく、この世にいない。少なくともこの時点で、説得するよりも懸命に焼きそばを食べる腹になろうとする方向に自分の持てる力を傾けている僕は、とても哀しい生きものでしかなかった。
「分かりました。つまり九王沢さんは、このインスタントの焼きそばを食べたことがないんですね?」
はいっ、と九王沢さんは力いっぱい頷いた。
「じゃあキャベツでも刻まなきゃな。それ、具入ってないから」
と、僕が貧困の象徴たる我が家の冷蔵庫に立とうとしたときだ。
「調製方法は、どうやらパッケージの裏面に記載されているようです」
まるでラテン語の古文書を読むような目で、九王沢さんが言い出した。嫌な予感その二が砂埃を立てて追っかけてきた。
「これならわたしも自分の力で、作れるのではないでしょうか?」
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