馳ぜて 溶けて 落ちる

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彼女が持っていたのは、手持ち花火のセットだった。 夏はとっくに終わってしまったのに。 取り残されたその花火に、自分の姿を重ねてしまい苦笑した。 コートを羽織り、菜乃に追い立てられるようにして庭に出た。 季節は12月。 外は凍てつく寒さで、吐く息は白かった。 湿気(しけ)てしまっていた花火は、なかなか花開いてはくれなかった。 それでも粘り強く火を点すと、突然眠りから覚めたようにぱちぱちと輝きを取り戻した。 「わぁ、きれい‥‥」 菜乃は、手に持った花火が闇を彩るその光景を、浸るように見つめている。 その横顔が、とても綺麗だと思った。
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