馳ぜて 溶けて 落ちる

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「伊織の家、行ってみたいな」 大学のサークルで知り合った同い年の恋人、麻理は、艶やかな唇をたゆませてそう言った。 断る理由はひとつも無いはずだった。 でも不思議と、菜乃の顔が頭の隅を過った。 高校に入ってから、菜乃も勉強と部活で忙しいらしいと父から聞いていた。 何となく、菜乃と彼女を会わせたくないと思った。 でもそういうときに限って、菜乃は家に居た。 「ただいま」 リビングのテーブルで、教科書やらプリント用紙やらを広げていた菜乃は、俺と、俺の腕に絡みついた麻理を見て僅かに顔を強張らせた。 菜乃の瞳に浮かんだ嫌悪感は、この年頃独特のものだったと思う。 それでもその否定と拒絶の色は、俺の心を充分に傷付けた。
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