馳ぜて 溶けて 落ちる

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有り得ないと、何度も誤魔化そうとした。 でも一度意識してしまった想いは、日増しに深く重くなっていった。 「わたし、夕飯いらないから」 家族で過ごす時間が唐突に増えた年末。 菜乃はそんな風に言って、食卓に座らなかった。 菜乃はあんこが大好きで、中でも一番の好物のぜんざいを食べ過ぎて太ったらしいと、義母は笑いながら俺に教えてくれた。 夜中に腹が減って、リビングで夕飯の残りの唐揚げを摘まみながら本を読んでいると、突然ドアが開いて菜乃が入ってきた。 菜乃は俺を見て、その瞳を大きくした。 すぐに外された視線に、寂しさと安堵の両方が俺の心に広がった。
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