馳ぜて 溶けて 落ちる

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「お母さん、変じゃない?」 冬は足早に通り過ぎ、あっという間に卒業式の日が訪れた。 髪を結わえ上げた菜乃はそう言って、台所に立つ義母に自分のうなじを見せている。 俺はリビングのソファから、二人の姿をぼんやりと眺めた。 「ああ、ちょっと崩れてるわよ、菜乃花」 「え、ほんとに? どこ?」 「ほら、左下のとこ」 「やだ、直してお母さん」 襟足に指をあててねだる菜乃に、義母は苦笑いを溢す。 「今手が離せないから、お兄ちゃんにやってもらって」 菜乃は唇を尖らせ、「じゃあ、もういい」と拗ねた声を出した。
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