馳ぜて 溶けて 落ちる

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間もなく高校の文化祭という時期で、俺はクラスの出し物となっていた手品を、放課後、毎日友達と練習していた。 その日もこれから文化祭の準備で出掛けなきゃいけなくて、正直、父の再婚のことなんて勝手に進めてくれればいいのに、と思っていた。 菜乃は俺の家のリビングのソファにひとり、所在なさげに座っていた。 そのちいさな背中が緊張で固くなっていて、何だか気の毒に感じた俺は、遅刻を覚悟して彼女の隣に腰を下ろした。 下を向いている菜乃の目の前に、片方の手を広げて見せる。 菜乃はきょとんとした顔で、俺の手のひらを見つめた。 ぎゅっと握って見せ、それからもう一度、ゆっくりと指を開いた。
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