馳ぜて 溶けて 落ちる

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去年まで、毎日のように見ていた高校の制服。 グレーのチェック柄のスカートから伸びた柔かそうな太股から、何故か目を反らしてしまった。 「おはよ。早いね」 間延びした声でそう言った俺を一瞥した菜乃は、横顔で「おはよ」と短く答えただけで、すぐにリビングのドアに手を伸ばす。 「学校、どう?」 玄関で靴を履く彼女の背中に、そう声を掛けた。 「ん、普通だよ」 菜乃は素っ気なくそう言った。 彼女からは、嗅いだことのない、花の密のような甘い匂いがした。 いつまでも幼いままだと、何の根拠もなくそう思っていた。 可愛い妹だった彼女に対しての想いに、僅かな歪みが生じたのは、多分このときだったと思う。
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