飛行機雲

2/4
前へ
/4ページ
次へ
俺が小学校の低学年のころだったと思う。あれは、遠足の日の前日だった。 青い青い空に、白くて長い、一本の線を見つけた。 俺はそれを初めて見たもんだから、本当にびっくりして、走って家に帰った。 家の戸を開けるなり、「母さん!お空が変だよ!」と言って、母親の腕をつかんで外に連れ出した。 すると母さんは笑って、それが飛行機雲だということと、飛行機雲が見えた翌日には雨が降ることを教えてくれた。 母さんの言ったとおり、翌日には雨が降った。 遠足が中止になったのは悲しかったけど、本当に雨が降ったことに、不思議な感動を覚えた。 それ以来、俺は空を見上げることが増えた。 最初は面白かった。飛行機雲をみつけて、明日は雨だなとわかると、「明日は雨が降るぞ!」 なんて予言ごっこを的中させては、周りの連中にすごいともてはやされた。俺はそれが嬉しくて、いつも空ばかり気にしていた。 しかし、いつしか、飛行機雲は決まって大事な日の前日に現れるようになった。 社会見学や、修学旅行、臨海学校。楽しみな日の前日に現れ、翌日に雨がふった。 俺は、だんだん飛行機雲が雨をもたらすように感じ始め、飛行機雲を見るたび、不快な気分になった。 そのうちに、飛行機雲を見た翌日が雨だけではすまなくなっていった。 中学生になったあたりから、奇妙なことが起こり始めたのだ。 ある朝学校に行くと、仲間に冷たく突き離された。 その上、俺がやってもいないことをやったといわれる。それが起きるのは、決まって飛行機雲を見た翌日。 数回は何とか和解したが、同じことが何度もおきるうち、人が離れていった。 いつしか、俺は独りぼっちになった。 周りのやつらが全員敵に見えた。 俺は学校に行かなくなった。 母さんは、そんな俺にも優しかった。 学校のことも、行きたくないのなら行く必要はないと慰めてくれた。 学校に行かなくなって数ヶ月がたった。 俺の心は落ち着きを取り戻し始めていた。 母さんが外で洗濯物を干しながら、「今日はいいお天気よ。」と声をかけてきたので、長い間外に出ていなかった俺は、久しぶりにテラスから顔を出してみたくなった。 久々に見た青空は、やっぱり綺麗だった。 「本当だ。いい天気。」 ・・・あ。 そのとき、空に、一筋の白い雲がかかっているのを見た。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加