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信じられなかった。だって加奈は、俺の好きな人だ。それも高1のときからずっと。
長瀬とは1年のころからつるんでいたから、あいつも知っていたはずだ。なのに。
「えと・・・もしかして、まだ好きだったのか?」
俺の様子に気付いたらしい。様子をうかがいながら、恐る恐るたずねてきた。
怒り?ショック?わからない。でもその時から、頭が真っ白だった気がする。
「いや、もう、好きじゃなくなったよ。」
気が付くと、俺はそういって笑っていた。
「そ・・・そうか。よかった。」
長瀬は本当に安心したような顔をして、それから突然立ち上がり、伸びをした。
「あー、よかった。ほんとによかったぁ。」
そう言いながら、俺に背を向けてフェンスのあたりまで歩いていく。
「俺さ、ちょっと不安だったんだよね。ほら、お前って一途っぽいから。」
顔は見えなかったが、奴はきっと満面の笑みを浮かべているんだろう。
そんなことを考えていると、長瀬は突然子供みたいにはしゃぎだして、「お、飛行機雲だ。」なんて言ってフェンスから身を乗り出していた。
俺は、あいつの背中をただ見ているつもりだった。ただ、見ているつもりだったのに。
白いひとすじの雲が、俺 の 目 に
気がついたとき、もう長瀬の姿はなかった。
「長瀬・・・?」
いやな予感がして、俺は校庭を見下ろした。
校庭には、赤いシミができている。
耳元で、誰かの笑い声がした。
飛行機雲が、今日も眩しく輝いている。
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