第三話 燻り

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「えっ? テレビ出演、ですか?」  翡翠は寝耳に水の話で戸惑いを隠せない。いつものように、夜10時過ぎ。家族でお茶を飲んでいた時の事だ。真珠が笑顔でこう切り出したのだ。 「そろそろ、テレビ出演しても良いかな、て思うの」  と。両親も祖母も、興味深気に真珠を見つめている。問いかけたのは翡翠だけだった。 「そ。前から何件もオファー来てたけど、デビューして少なくとも三年ほどはテレビやラジオの出演は控えておこうと思ってね。最初から派手に飛ばすと尻つぼみになりちだし」 「なるほどな。それで、去年あたりから雑誌の取材に応じたりし始めてたのか」  父親は納得したように言った。 「わたしゃ反対しないよ。好きにやってみなさい」  と祖母。 「私も賛成よ。ちょうど良い頃合いじゃないかしらね」  と母親。 「あ、あの、でも……」  反論を試みる翡翠。いや、質問と言うべきか。だが、祖母も父も、冷ややかな眼差しでちらりと翡翠を見ただけで、直ぐに真珠を見つめる。 「あなた、まさか反対なんかしないわよね? あなたは今まで通り真珠の影武者としていれば良いだけですもの」  母親はジロリと翡翠を睨みつける。冷たいほど端整な顔立ち故に、冷酷さに凄味が増して見える。 「あ、いえ、その」 「地味なあんたなんか、テレビ局でも願い下げよ。大人しく占いだけして真珠の影武者になってれば良いの。くれぐれも、出しゃばらないように!」 「……はい」  すげなく言い切る母親に、肯定の返事しか許されない事を悟る翡翠。 「具体的にどんな話なの?」  母親は嬉しそうに真珠に話しかけた。 「芸能人を鑑定するの。よくテレビでやってるやつよ」  真珠を中心に、一家の話に花が咲く。翡翠を除いて。 「……あの、お先に失礼します」  翡翠は席を立つ。だが誰も気に留めない。居たたまれなくなってリビングを後にした。
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