第四話 『節制』、均衡・グレーゾーン・葛藤

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「……うちは完全実力主義なので、お給料も完全歩合制となります。あなた様はまだ十九歳とお若いですが占いの腕は確かなようですし、何でしたら今から来て頂いても。ですが、クライアントがつかないようでしたらお互いに収入は0ですから。他にも占い師はおりますし、集客の方はご自身で頑張って頂きませんと」  サーモンピンクのパンツスーツに身を包み、紫色の縁の眼鏡をしたふくよかな中年女性は、翡翠を品定めするように見ている。 「あ、はい……」 「今時のクライアントは、占い師の見た目にも厳しいですから、服装やメイクなどは工夫なされた方が宜しいかと」 「分かりました。お忙しい中、有難うございました」  薔子は丁寧に頭を下げると、テーブルの上に展開していた二種類のタロットを素早く集め、専用のポーチに入れる。更にタロットクロスを手早くたたみバッグにしまい込んだ。そして立ち上がると、女性に軽く頭を下げその場を後にした。 (面接一回目、こんなもんか。要は採用してやっても良いけど、今のままだとクライアントはつかないから外見なんとかしろ、て事よね。事前に占った通りだわ)  次の面接場所に向かいながら、翡翠は先ほどの面接を振り返る。占いの実技試験のあと、すぐに前述の話となった。 (次も、この外見をマシにしろ、て言われちゃうかな……。自分なりに、清潔感を心掛けて紺色のパンツスーツを着て来たんだけど、一般企業の中途採用じゃないから、真面目過ぎだったかな)  翡翠は溜息をついた。予想通りの展開だからだ。もっと言ってしまえば、自分で自分を占う迄もなかった。自分はやはり姉の影武者……これしかなれないのか。だが、今は結果の事は考えたくなかった。何も感じないように、失望の未来の予感を心の奥に封印する。  『KAGAYA』の定休日は通常毎週火水である。翡翠は早速オフの日を占いの面接を受ける事に当てた。  二件目は約束の時間まであと2時間ほどある。面接場所近くで時間を潰そうと喫茶店に入った。
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