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(秋風の精霊たちよ!)
『これはこれは茅将軍、秋の代表の長老、芒様、いかがなされました?』
風の精霊は物珍しそうに話しかけて来た。彼らの容姿は幻獣の一体、麒麟である。
(我が声を届けて欲しい。日本の草花たち全てに誓おう! 私はもう、二度と弱気になるまい。何年、何十年かかろうとも必ずまた返り咲こうぞ! 共に耐え忍ぼう、時が満ちるまで。反撃の機会は必ず巡って来る、と)
『承知しました! このところどこの野原や土手、草原に行ってもこの花ばかりで、少々飽き飽きしてきていたところです』
風は喜び勇んで請け負うと、早速立ち去って行った。それを見送ると、茅は気配を露わにする。つまり、その姿を敵の前に晒したのである。
「無礼者! 我が一族の女王に、許可なく近づく事は許さん!」
瞬時に、気色ばみながら女の前に立ち塞がる家臣たち。その手には西洋の剣を手にしている。
「下がれ」
女王は静かに命じた。
「しかし!」
「いいから下がれ!」
尚も食い下がろうとする家臣を制し、茅の前へ歩み出る。
「これは、事前にお約束もせずに申し訳ございません」
茅は落ち着いて応じながら丁寧に頭を下げる。
「私は茅と申す者。芒の、引いては全ての草花を束ねている者でございます。此度、あなた方の勢力がどのくらい広がっているのか、その様子を見に飛び回っておりました。美しく華やかな花の気を感じて、舞い降りた次第でございます。以後、お見知りおきを」
(……これは、何と美しい男じゃ。雅、風流、奥床しい、高貴、和の美とはこのような事を言うのか?……)
女王は息を呑んで目の前の男を見つめた。だが、内心の想いは微塵も感じさせぬ高圧的な態度を装う。
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