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「これはこれは、負け犬がよくぞ参られた。逃げ出さずにこうして姿を見せる事は敵ながら見上げたものじゃ。我が名は『金の鞭』よろしゅうな。ひとつだけ弁明させて頂こうか」
「何なりと」
「人間どもが何やら花粉症の原因は我らのせいだ、と秋になると嘆いているようじゃが……あれはそちらの草花の一つであろう風媒花である「ブタクサ」じゃ。酷い濡れ衣であるぞ。我らは虫媒花な上に、アメリカのアラバマ州の花じゃ。アメリカでは我らのエキスやオイルが普通に売られておる。肌をしっとりさせ、香には癒しのパワーがあるのじゃ。茶花にもなっておる!」
「なるほど。その噂は存じませんでしたが、そうだったのですね。勉強になります。他にはございませんか?」
「そうだな」
女王はにやりと笑った。
「我らは日当たり良好で湿った土を好む。土手や草原が大好きなのじゃ」
「なるほど、だから私共の芒や、秋の草花と被ってしまっただけ……そうおっしゃりたいのですね?」
茅は穏やかな笑みで答えた。だが、その瞳に奥底では怒りの青い炎がチラチラと燃えている。
「良かろう、それは宣戦布告とみなすが、宜しいか?」
ムッと来たように答える女王は、相手のペースに乗せられて自らの手の内をバラしてしまった事に漸く気づいく。
「そう受け取って頂いて結構です。今日は二十年ほど経って漸く初顔合わせとさせて頂きました。我らが底力、甘く見ない方が宜しいかと」
茅は涼し気に笑った。
「何?」
途端に気色ばむ女王と家臣たち。
「では、突然に失礼致しました。どうぞお手柔らかに。今後とも宜しくお願い申し上げます」
茅は丁寧に頭を下げると、ふわりと舞い上がった。ほんの少し、女王と歩みよりたい、と感じてしまう抗いがたい甘い欲求と戦いながら。
「よかろう、受けて立とう。負け犬の遠吠えにしか聞こえぬがな」
女王は不敵な笑みで応えた。微かに、惹かれる気持ちを打ち消しながら。
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