6人が本棚に入れています
本棚に追加
それから三年の月日が過ぎた。春には蓮華草やシロツメクサが大地で微笑み、夏には百合やノウセンカズラが背を伸ばうようになっていた。秋にはすっかり背の高い銀色の穂が、さらさらと秋風になびき、土手や原っぱが広がっている。萩や女郎花も、そよそよと風に揺れ気持ち良さそうだ。
「どうした? もう降参か?」
茅は面白そうに、目の前で跪くセイタカアワダチソウの女王を見下ろす。彼女の両脇には露見草大尉と振袖草中尉が刀を構えている。彼女はもうこれ以上は滅亡するしかない、と判断し、命乞いに単独で茅の元に乗り込んだのだった。
茅は彼女の前に膝をつくと、右手で女王の顎をクイッと持ち上げた。
「……私のモノに、なるか?」
(このまま、力づくでこの女を私のモノに出来たら……)
甘く囁く。それは半分は本心であった。
(このまま、彼の胸に飛び込めたら……)
彼女もまた、激しく葛藤していた。だが、種族を超えた交わりは地上の生態系を狂わせてしまう。それは自然の摂理に逆らう事であった。すなわち、地上の生きとし生ける者の生態系と歴史を狂わせてしまう。それは暗黙の了解で自然界では禁忌とされていた。女王はフッと寂し気に笑った。
「まさか、愚かな人間が散々繰り返して来た事ではないか」
それを受けて、茅もまた寂し気に微笑む。そして
「そうだな、そのような愚かな真似をして、全滅などあり得ない……」
と応じた。女王は溜息をつくと、キッと彼を見据えた。
「降参する。どうか全滅だけは許して欲しい」
そして深々と頭を下げた。
「茅将軍、こやつの言う事など!」
寡黙な振袖草が初めて激しい憤りを見せた。その美しい顔立ちは、どこか野生の牡鹿を思わせる。
「驕れる者は久しからず、だ。それは私達とて同じこと。仮にこやつらを滅ぼしても、また新たな外来種がやってきて争い事に発展したりしないとも限らぬ」
諭すように語る茅。皆、固唾を飲んで彼の結論を待つ。
「和解を受け入れよう! 共存共栄の道を!」
声高らかに言い放ち、女王に右手を差し伸べた。
最初のコメントを投稿しよう!